標的型攻撃メール訓練では組織を無傷で守れない
情報セキュリティ担当者が組織で初めて標的型攻撃メール訓練を実施しようと考える場合、標的型攻撃メール訓練にもっとも期待するのは、悪意ある第三者から標的型攻撃メールが送られてきても、組織の人がその標的型攻撃メールにひっかからないようになること、だと思います。
私も自組織ではじめて標的型攻撃メール対策のために訓練を実施した時は、そう思っていました。
しかし、標的型攻撃メール訓練を実施すると分かりますが、必ずひっかかって添付ファイルを開封したり、本文に記載されたURLリンクをたどって模擬マルウェアダウンロードサイトを閲覧したりする人が一定数存在します。
100人中100人が、どう見ても不審だと感じる変なメールなら、誰一人として標的型攻撃メールにはひっかかりません。
しかし、最近の標的型攻撃メールは、「請求書」「荷物の再配達」など、誰かはひっかかってしまう件名や内容で送られてきます。
例え毎年毎年繰り返し標的型攻撃メール訓練を実施していても、悪意ある第三者に、組織のメールユーザー25人ほどがターゲットにされてしまえば、そのうちの誰かは、まんまとウイルスが仕込まれた添付ファイルを開封したり、本文に記載されたURLリンクをたどってマルウェアダウンロードサイトを閲覧したりすることになるのです。
つまり、標的型攻撃メール訓練を何度繰り返して実施しても、残念ながら標的型攻撃メールから組織を無傷で守ることは出来ないのです。
標的型攻撃メール訓練実施の目的
何度繰り返し実施しても標的型攻撃メールにひっかかるなら、標的型攻撃メール訓練を行う必要はないのでは?そう思われる人もいるかもしれません。
が、だからこそ標的型攻撃メール訓練を実施する必要があるのです。
たしかに標的型攻撃メールにひっかかる事を完全に防ぐことは出来ません。
これは標的型攻撃メールだけではなく、あらゆるサイバー攻撃に対して同じ事が言えます。
そこで今我々に求められるのは、攻撃を受けないための事前の対策以上に、攻撃を受ける事を当たり前として、その時、いかに被害を少なくするかという事後の対策です。
この事後対策をしっかりと行うために、標的型攻撃メール訓練は必要なのです。
標的型攻撃メールなどのサイバー攻撃に備える事後対策は別の記事、標的型攻撃メール訓練と同時に必ずやるべき事とは、でも詳しく述べていますので、是非あわせてお読み願います。
標的型攻撃メール訓練と同時に必ず実施すべき2つの事
標的型攻撃メール訓練と同時に必ずやるべき2つの事は、ウイルス感染が疑われる時の事後対応手順の確認と、インシデント発生時の連絡体制や報告方法の確認です。
添付ファイル開封率
はじめて標的型攻撃メール訓練を実施すると、添付ファイルの開封率は軽く10%を超え、組織によっては20%に迫る勢いの結果が出るはずです。
どこの組織も訓練結果はあえて公表などしませんので、この数字は標的型攻撃メール訓練を扱っているセキュリティベンダーに私が独自に聞き取りをして得た数字です。
最近の標的型攻撃メールの特徴を模した分かりやすい模擬攻撃メール内容でこの結果なので、もっとひっかかりやすいメール内容にすれば、開封率はさらに上がります。
あなたの組織の訓練における添付ファイル開封率が、このような驚きの結果でも、これは他の組織に比べて高い割合ではなく、現状では実際の標的型攻撃を組織全体で受ければ、ほぼ間違いなく被害を受けるということです。
開封率0%じゃなければ直接的な効果はない
「巧妙でバレにくい模擬訓練メールを何度送っても開封率0パーセント」にならなければ、標的型攻撃メール訓練の直接的な効果はありません。
この結果をもとに、サイバー攻撃は防ぐ事が不可能であり、サイバー攻撃を受けた場合にいかに被害を少なくするか、を考えていくこと、それが標的型攻撃メール訓練の目的であり効果です。
すでに何度も何度も繰り返し標的型攻撃メール訓練を実施している私の組織の開封率は5%前後です。平均と比べると低い数字ですが、20%と5%に大した違いはありません。組織全体が攻撃を受けると、双方必ず被害を受けます。
標的型攻撃メール訓練の開封率を示して予算獲得
上層部に対して、残念な訓練結果の報告は気を使うでしょうが、残念な結果をもとに、サイバー攻撃を防ぐための事前対策予算を要求すると、比較的楽に予算が取れるかもしれません。
何もせずに、心配だからと新しいソリューションの導入を提案しても、現状問題がない時にはなかなかGOサインは出ないものですが、実際に標的型攻撃メール訓練を行って、リスクがある状況を数字で理解してもらえば、要求は通りやすいはずです。
そういう意味では標的型攻撃メール訓練は事前対策にもなると言えるかもしれませんね。